MdN-特集君の名は。~インディーズ的強さとは何か~
本屋に行ったら、PCの雑誌棚にMdNの2016年10月号があった。
申し訳ないのだが、MdNという雑誌を知ったのはこのときである。普段雑誌なんて目にも入れていないのが正直なところなのだ。だが、このときは「君の名は。」のビジュアルガイド(あと1冊だった)をゲットしていたこともあり、他に新海監督にまつわる本はないかなと本屋を歩き回っていた。
もちろんいろいろな雑誌で特集されているのは公式の宣伝などで知っていたがその本屋にはMdNしかなかった。少し、手に取ると、新海作品を切り取るキーワードが紹介されていた。さらに、何枚か見開きでイラスト(映画中の1シーン)。もっといえば、各セクションのイントロダクションが面白くて、「これは買いだ!」となった次第である。
というわけで、以降気になった部分を少し紹介する。
申し訳ないのだが、MdNという雑誌を知ったのはこのときである。普段雑誌なんて目にも入れていないのが正直なところなのだ。だが、このときは「君の名は。」のビジュアルガイド(あと1冊だった)をゲットしていたこともあり、他に新海監督にまつわる本はないかなと本屋を歩き回っていた。
もちろんいろいろな雑誌で特集されているのは公式の宣伝などで知っていたがその本屋にはMdNしかなかった。少し、手に取ると、新海作品を切り取るキーワードが紹介されていた。さらに、何枚か見開きでイラスト(映画中の1シーン)。もっといえば、各セクションのイントロダクションが面白くて、「これは買いだ!」となった次第である。
というわけで、以降気になった部分を少し紹介する。
1.こけしの話
巻頭のほうに「人と人」という対談がある。この「こけし」に始まる民芸品の魅力の話は興味深かった。
ポイントだけかいつまんで書くと、
・絵心がない人たちがつくる表現の面白さ
が民芸品の魅力だという。
私も経験があるが、何かものをつくったりする上で技術から入ると楽しみの何割かを失う気がする(技術が好きな人は別)。私は正解によせる癖があるのでなおさら楽しくなくなってしまうのである。技術というのは「おまけ」ぐらいに思って、意識しすぎない方が長期的に創作を楽しめるだろうし、「思い」がのっていればそれは受け手にもきっと届く。楽しめなければ私は創作など意味がないとどこかで思っている。
それから「体験の大事さ」も少し語られている。今の時代はネットで「どこでも行ける」、「なんでも買える」、「すべてを知る」ことができるといっても過言ではないぐらいの規模で家から出る必要性が低下している。こういうことに対して知識人たちはデメリットを言うが、実際はこういう風潮だからこそ「体験」に価値が生まれるのではないだろうか。
音楽が事実上無料化して久しいが(違法アップロードなども含め)、どこでも・いつでも聞けることで、ライブやフェスなどの今・そこでしか聞けない音楽の魅力がむしろ高まったと言える。これは音楽だけにとどまらず、他のジャンルへも波及していく流れになるだろう(電子書籍は読み放題の登場でこれに近づいた)。
くさい言い方をすれば「一期一会」の時代になったということだ。自分の分野でどうしたら一期一会にできるのか。悩ましくも面白い時代だと思う。
巻頭のほうに「人と人」という対談がある。この「こけし」に始まる民芸品の魅力の話は興味深かった。
ポイントだけかいつまんで書くと、
・絵心がない人たちがつくる表現の面白さ
が民芸品の魅力だという。
私も経験があるが、何かものをつくったりする上で技術から入ると楽しみの何割かを失う気がする(技術が好きな人は別)。私は正解によせる癖があるのでなおさら楽しくなくなってしまうのである。技術というのは「おまけ」ぐらいに思って、意識しすぎない方が長期的に創作を楽しめるだろうし、「思い」がのっていればそれは受け手にもきっと届く。楽しめなければ私は創作など意味がないとどこかで思っている。
それから「体験の大事さ」も少し語られている。今の時代はネットで「どこでも行ける」、「なんでも買える」、「すべてを知る」ことができるといっても過言ではないぐらいの規模で家から出る必要性が低下している。こういうことに対して知識人たちはデメリットを言うが、実際はこういう風潮だからこそ「体験」に価値が生まれるのではないだろうか。
音楽が事実上無料化して久しいが(違法アップロードなども含め)、どこでも・いつでも聞けることで、ライブやフェスなどの今・そこでしか聞けない音楽の魅力がむしろ高まったと言える。これは音楽だけにとどまらず、他のジャンルへも波及していく流れになるだろう(電子書籍は読み放題の登場でこれに近づいた)。
くさい言い方をすれば「一期一会」の時代になったということだ。自分の分野でどうしたら一期一会にできるのか。悩ましくも面白い時代だと思う。
2.インディーズ的強さ~新海監督の独自色~
本題である(笑)
君の名は。特集ではインタビューと資料がメインで構成されている。
●
☆田中さん(キャラデザ・OP作画監督)×安藤さん(作画監督)
この対談形式によるインタビューで印象に残ったのは、新海監督の(映画館上映)第一作「ほしのこえ」の評価である。
アニメ業界の人は否定的に見ているのでは、とインタビュアーがふると「たぶん否定しようとしたはず」との答え。しかし、「作画などはつたなくても他がすごい」ことで評価は決して悪くならないとのこと。やはりほぼ一人で作成したという点とCGのクオリティは既存のアニメ業界でもそう真似できないことのようだ。全体ではなく、部分でどこを「突き抜けさせるのか」がインディーズでは大事なのではないかと感じた。
また、商業との違いとして、新海作品はターゲティングが自分にも向いているということを指摘しており、それゆえ人に観てもらう価値をつけるため「共感性をどう与えるか」という点をよく考えており、結果その部分が普通の人より長けた作家になったのではないかという話もあった。これも重要な指摘だ。インディーズはかなり好きに出来るがゆえに独善的になりがちだが、そこに「共感性」を加えることで自分にとっても観た人にとっても意味がある作品に昇華させることができるのではないだろうか(もちろん共感しない人もいるだろうが)。
●
☆三木さん(色彩設計)
ここで面白かったのはフローの独自色である。新海さんはアニメ畑の人ではなく、自分でアニメをつくってきたので業界の慣例的なフローと異なる部分が随所にあるそうだ。
また、最後まで変更を加えたりということも多く、普通のTVアニメのスケジュールでは到底無理なこだわった絵づくりを行っているという。ここもインディーズ的な強さだろう。新海さんのすごいところはそれを既存のアニメ業界の人と組んでもやめないところである。テレビなどで拝見するととても物腰の柔らかい人で、私自身人柄がとても好きだが、内にはとても熱いものを持っている人だと改めて思った。
●
☆丹治さん×馬島さん×渡邉さん(美術監督)
ここで最も印象的だったのは「オートマチックにしないこと」である。美術に限らず、あらゆる現場でとても手間をかけるのが新海作品の特徴だというのである。これは本来の芸術にとても近い発想である。
例えば、新海作品は風景描写が評価されるが、そのときに「まるで実写のような」という枕詞がつくことが多い。だが、それは本当だろうか。少なくとも私は新海作品に出てくるような、涙が出るような美しい景色にはいまだであったことは無い。というか、今後も永遠にないだろう。なぜなら、あの風景はアニメーション用に誇張されたものだからである。前作の「言の葉の庭」は画面のきれいさが際立つが、新宿御苑に行って雨が降ってもあの景色は絶対に見れない。存在する「もの」は同じでもそれはくすんだ色にしか見えないはずである。
重要なのは、描き手の「考え」と「思い」である。新海さんにとって景色は思春期に救われたものであり、自分の原風景であるというような発言を何度か目にしている。そしてそのような感覚を観た人、特に若い人に感じてほしいと。この考えと思いがあるからこそ、あのきれいな風景が生まれるのだろう。ただ、風景を模写したり、写真からおこしたり、設定をただ守るだけのオートマチックな作業では出ない質感があそこにはあり、それが新海さんの作品にとっては重要なポイントなのである。
このこだわりと芸術感覚がインディーズの強さとして欠かせないものではないかと思った。
この後、新海監督のインタビューがあるがあまり書きすぎるとよくないので、実際に買って読んでいただきたい。
本題である(笑)
君の名は。特集ではインタビューと資料がメインで構成されている。
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☆田中さん(キャラデザ・OP作画監督)×安藤さん(作画監督)
この対談形式によるインタビューで印象に残ったのは、新海監督の(映画館上映)第一作「ほしのこえ」の評価である。
アニメ業界の人は否定的に見ているのでは、とインタビュアーがふると「たぶん否定しようとしたはず」との答え。しかし、「作画などはつたなくても他がすごい」ことで評価は決して悪くならないとのこと。やはりほぼ一人で作成したという点とCGのクオリティは既存のアニメ業界でもそう真似できないことのようだ。全体ではなく、部分でどこを「突き抜けさせるのか」がインディーズでは大事なのではないかと感じた。
また、商業との違いとして、新海作品はターゲティングが自分にも向いているということを指摘しており、それゆえ人に観てもらう価値をつけるため「共感性をどう与えるか」という点をよく考えており、結果その部分が普通の人より長けた作家になったのではないかという話もあった。これも重要な指摘だ。インディーズはかなり好きに出来るがゆえに独善的になりがちだが、そこに「共感性」を加えることで自分にとっても観た人にとっても意味がある作品に昇華させることができるのではないだろうか(もちろん共感しない人もいるだろうが)。
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☆三木さん(色彩設計)
ここで面白かったのはフローの独自色である。新海さんはアニメ畑の人ではなく、自分でアニメをつくってきたので業界の慣例的なフローと異なる部分が随所にあるそうだ。
また、最後まで変更を加えたりということも多く、普通のTVアニメのスケジュールでは到底無理なこだわった絵づくりを行っているという。ここもインディーズ的な強さだろう。新海さんのすごいところはそれを既存のアニメ業界の人と組んでもやめないところである。テレビなどで拝見するととても物腰の柔らかい人で、私自身人柄がとても好きだが、内にはとても熱いものを持っている人だと改めて思った。
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☆丹治さん×馬島さん×渡邉さん(美術監督)
ここで最も印象的だったのは「オートマチックにしないこと」である。美術に限らず、あらゆる現場でとても手間をかけるのが新海作品の特徴だというのである。これは本来の芸術にとても近い発想である。
例えば、新海作品は風景描写が評価されるが、そのときに「まるで実写のような」という枕詞がつくことが多い。だが、それは本当だろうか。少なくとも私は新海作品に出てくるような、涙が出るような美しい景色にはいまだであったことは無い。というか、今後も永遠にないだろう。なぜなら、あの風景はアニメーション用に誇張されたものだからである。前作の「言の葉の庭」は画面のきれいさが際立つが、新宿御苑に行って雨が降ってもあの景色は絶対に見れない。存在する「もの」は同じでもそれはくすんだ色にしか見えないはずである。
重要なのは、描き手の「考え」と「思い」である。新海さんにとって景色は思春期に救われたものであり、自分の原風景であるというような発言を何度か目にしている。そしてそのような感覚を観た人、特に若い人に感じてほしいと。この考えと思いがあるからこそ、あのきれいな風景が生まれるのだろう。ただ、風景を模写したり、写真からおこしたり、設定をただ守るだけのオートマチックな作業では出ない質感があそこにはあり、それが新海さんの作品にとっては重要なポイントなのである。
このこだわりと芸術感覚がインディーズの強さとして欠かせないものではないかと思った。
この後、新海監督のインタビューがあるがあまり書きすぎるとよくないので、実際に買って読んでいただきたい。
3.未来はニートのもの
これは後ろのほうにあったコラムのようなところの内容である。
単純に面白くないだろうか(笑)
話としてはAI(人工知能)が出てきて、職業がAIに奪われるとみんなの仕事はなくなるかもしれない。でも、そもそも身を粉にして働く必然性はあるのか、という大きな疑問をこの流れは突きつける。
まだしばらくは「労働は美徳」世代が生き残るので、無駄な仕事をつくったりして仕事は残るかもしれないが、将来的にはみんなニートみたいになるのではないか。
というような話であった。
個人的には仕事が無くなることはないと考えている。現在のような賃労働が非人間的な側面が強いのは確かで、それらは淘汰されていくことは間違いないと思うが、それらと交代して今では考えられないような仕事が新たに出てくるのではないだろうか。仕事には社会への所属欲求や承認欲求を満たす効果もあるのでゼロになると逆に困ってしまう。
願わくば、その内容がもっと人間的で苦しみがないものになっていたらなと思う。
これは後ろのほうにあったコラムのようなところの内容である。
単純に面白くないだろうか(笑)
話としてはAI(人工知能)が出てきて、職業がAIに奪われるとみんなの仕事はなくなるかもしれない。でも、そもそも身を粉にして働く必然性はあるのか、という大きな疑問をこの流れは突きつける。
まだしばらくは「労働は美徳」世代が生き残るので、無駄な仕事をつくったりして仕事は残るかもしれないが、将来的にはみんなニートみたいになるのではないか。
というような話であった。
個人的には仕事が無くなることはないと考えている。現在のような賃労働が非人間的な側面が強いのは確かで、それらは淘汰されていくことは間違いないと思うが、それらと交代して今では考えられないような仕事が新たに出てくるのではないだろうか。仕事には社会への所属欲求や承認欲求を満たす効果もあるのでゼロになると逆に困ってしまう。
願わくば、その内容がもっと人間的で苦しみがないものになっていたらなと思う。
この記事を読んで、興味が沸いたら、ぜひ買ってみてほしい。新海監督のファンなら楽しめる内容になっているはずである。