電子書籍レーベル・Hybrid Libraryの可能性とは!?
今回は電子書籍レーベルのHybrid Library(以下HL)についてご紹介をするとともに、その可能性と飛躍のために何が必要かを自分なりに考察します。
そもそも私自身がこういうサイトをやっている理由のひとつとして、『自由であり危機への対処がやりやすいのでこれからの社会では「個」で活動することが必要だ』という思いがあります。そして、この個での活動を行うには、個が自活出来なければなりませんよね。そのためには「①収入の確保と②支出の設計」が必要なわけですが、HLの活動は①におけるモデルケースになる可能性があると思っています。そういうこともあってHLについてはとても注目しているのです。
まずは、HLについて簡単に紹介を。HLは作家の弥生肇さんが自身の作家仲間さんに声をかけたりして定期的にアマゾンのKDPで本を出版するという活動をしている電子書籍レーベルです。現在(2015年9月時点)は4冊発売されています。
今回はマーケティングプロセスにおおよそ従いながらHLについて考察していき、可能性や飛躍の方法を探ってみたいと思います。
〈リサーチ面〉
HLのポイントは電子書籍というかたちを採用したことです。弥生さんは同人活動をなさっている方なので、紙書籍を軸に活動なさっていたのだと思いますが、電子書籍におけるセルフパブリッシングに可能性を見出だしたのでしょう。セルフパブリッシングでは、商業と同じ土俵で出版が出来ますのでHLが成功すれば大きな役割を果たすだろうと思います。具体的にはいわゆるプロとアマチュアの垣根をより混沌とさせ、それ以外の要素が出版界では重要になる時代がくるかもしれないということです。
ところが、セルフパブリッシングにはいまだ大きな問題があります。いくつかありますが、作り手からするとプロモーションが最大の問題だと思われます。個人の宣伝力には限界がありますから、商業出版と比べると露出機会を大幅に少なく見積もらざるを得ません。また、商業出版では「出版社の審査を通過した」という事実が質を一定程度保証してくれているのに対して、個人作家はそれがゼロなので消費者的には手が出しにくいわけです。
この問題を解決する一つの方法がレーベルです。レーベルでプロモーションを担当することで、個人だけで宣伝するよりも関わる人数が増えて宣伝力が増しますし、販促シナリオを練れば複数の作品を売り込むことが出来ます。さらに、レーベルから出ているという事実は一定の質担保の機能を果たすことが出来るのです。
弥生さんがこのようなことを考えたのかは分かりません。別の理由があったのかもしれません。しかし、いずれにせよ、レーベルというかたちに目を付けたことは素晴らしいことだと私は思っています。
〈誰向けか?〉
セグメンテーションやターゲティングについては、私としては不明瞭だという印象があります。サイトでもあまり強調はされていないのではないでしょうか。
「同人だからできる在野発のアプローチで、本当に書きたいもの・読んでもらいたいものを発刊する場」、「書き手の想いをできるだけありのままに、なるだけ強く遠くへ届けたい。そういうユニークな想いを集めた場所を創りたい」(公式HPより引用)というメッセージはあるのですが、これはどちらかと言えば作家側のメリットなので読者に響くかは微妙です。この作家側の思いが読者側にどういう価値を提供できるのかをより具体的に記載するとよいのではと思っています。それによって一定のターゲティングが可能になると思います。
(例えば、「丸っこいテンプレラノベに飽きてしまった人へ向けて、とがった刺さるラノベを書きました。心を揺らす読書体験をお届けします!」みたいな……)
またHLは作品ジャンルが基本的にバラバラなので、それらを統合するブランドを確立することでプロモーション計画がより立てやすくなるのではないでしょうか。
(個々をブランディングして、統合ブランドを設けない場合も実際多くありますが、HLでこれを採用するのはあまり意味がないと考えます)
次にポジショニングについてです。このようなセルフパブリッシングの分野で複数人のレーベルというかたちをとっているのは現状HLぐらいでしょうし、仮に他にあっても売上ではシェアトップだと思われます。ゆえに(セルフパブリッシングレーベル)市場の一番手をとっており、スタートダッシュには成功したと解してよいと思います。
〈4P〉
プロダクト
これについては門外漢なので詳しくは触れません。でも、「青春くろーび」は大好きです(笑)
以前弥生さんの編集方法がTwitterで何やら話題になってしまったようですが、それだけ真摯に作品に向き合っているという事実が伝わって逆に作品の質担保につながったのでは、なんて思いもあります。
プレイス
現状はKDPのみです。詳細なデータは持ち合わせていませんが、見聞きしてきたイメージとしてはやはりKDPは圧倒的に売りやすいようですので、無理に他ストアに配信する必要はないのではと考えます(ロイヤリティも下がりますし)。
プライス
今のところは300円固定ですね。値段については私もあまり研究できていないので何とも言えないのが正直なところです。
プロモーション
基本的にはHLのサイト+Twitter、弥生さんのブログ+Twitter、その他関係者のブログ等+Twitterかなという感じでしょうか。
問題はどうプロモーションするかですね。最新作の「ひめとり!」(買ってはあるのですがまだ読めていないのです…ごめんなさい)が今はよく売れているそうですが、一つの要因としては初動がよく、早期にランキングに入ることが出来たことが大きいのではないかと予想しています。「ランクイン=売れている=質担保」という図式が成り立つからです。また、作者の晴丸さんがつくった動画の効果もあるのかもしれません。
今後見るべきポイントは次作の動向です。
消費者には2種類います。それは「新規」と「ファン(常連)」です。これは両輪でどちらにもアプローチをかける必要があります。具体的には、新規さんに対しては「質担保」と「話題性づくり」、常連さんには「コンテキストづくり」と「価値の明確化」を行うとよいのではと思っています。とはいえ、ウェイトとしてはファンを重視するべきだというのが私の考えです。なぜならファンの動きが新規を呼び込むからです。
(逆に新規に重きを置くと博打型になります)
もし、HLに一定のファンがおり、「ほぼほぼ買うよ層」が確立されていれば初動の良さを確保できるためにほぼ毎回「ひめとり!」のようなケースを辿れる可能性があります。しかし、そうでないのであればこのような動きにはならないでしょう。ゆえにファンのつき具合を探ることが今後重要になると考えます。
ではどうやったらファンを付けられるか。必要なのは、以下3つです。
①作品作成の経緯の説明
②どんな価値を与えたいのかの説明
③どう読んで欲しいかの説明
(誰に読んで欲しいか)
弥生さんが最近お始めになったブログで①を行っていますが、とても面白いです。あとは各作品、レーベルそのものについても上記を説明することで、作品へのコンテキストが発生し、購入動機をつくることが出来ます。消費者にとって「買う」ことは悪です。なので「買わない理由」をいつも持っています。ですが、販促やその他の動きでもって、それに打ち勝ち「買う」ことを正当化させられたときに初めて商品に手を伸ばすわけです。そのためには購入動機を複数提供しておくことが大事になります。
あとは、HLのキャラクターである「はことレティ」をどう使うのかが重要ではないでしょうか。現状はあまり利用されていない部分が見受けられます。ですが、キャラクターを利用することで、押しつけがましさを減らすことも出来ますし、普通の宣伝とは違うかたちを採用することが出来ます。
例えば、
「作品製作過程を明らかなネタバレにならない程度に逐次伝える」
「上記①②③を伝える役割を担わせる」
(これに小説を利用すると面白いと思いますが負担が多くなりすぎますね)
「販促企画に使用する」
などが考えられます。
今の状態だとちょっともったいないなあと思うところです(弥生さんが色々と兼業していらっしゃり大変そうなので仕方ないかなと思ってもいますが)。
〈まとめ〉
ざっくりまとめると、
・読者にとっての価値の明確化
・プロモーション方法の精緻化
・はことレティの使用
をすると、より飛躍できるのではと考える次第です。
また可能性についてですが、HLが今後も安定した売上をあげられるような体制を構築できれば、複数人によるレーベルがいくつか出来ることが考えられます。そうなると、セルフパブリッシング市場そのものが広がっていくでしょう。また、プロモーションや編集のみならず、新人発掘機能をも果たしうるかもしれません。こうなれば電子書籍に特化した出版社として、従来の出版社を脅かす存在にさえなる可能性があります。
レーベルというかたちをとることでの弊害もあるにはあるのでしょうが、メリットはそれを補ってあまりあるのではないかと私は考えています。
新しい動きは何かと言われるのが世の常です。その行動を起こした弥生さんやその他作家の方々は本当にすごいなと思います。私にはちょっと出来そうもありません。
私は今後もHLの活動は注目していきますし、応援したいなと思っています。読んでいる方もこの新しい可能性に夢と希望をのせてみてはいかがでしょうか。
リンク
・Hybrid Library
・ポジティブ物書きの雑記帳(レーベル主宰の弥生肇さんのブログ)
そもそも私自身がこういうサイトをやっている理由のひとつとして、『自由であり危機への対処がやりやすいのでこれからの社会では「個」で活動することが必要だ』という思いがあります。そして、この個での活動を行うには、個が自活出来なければなりませんよね。そのためには「①収入の確保と②支出の設計」が必要なわけですが、HLの活動は①におけるモデルケースになる可能性があると思っています。そういうこともあってHLについてはとても注目しているのです。
まずは、HLについて簡単に紹介を。HLは作家の弥生肇さんが自身の作家仲間さんに声をかけたりして定期的にアマゾンのKDPで本を出版するという活動をしている電子書籍レーベルです。現在(2015年9月時点)は4冊発売されています。
今回はマーケティングプロセスにおおよそ従いながらHLについて考察していき、可能性や飛躍の方法を探ってみたいと思います。
〈リサーチ面〉
HLのポイントは電子書籍というかたちを採用したことです。弥生さんは同人活動をなさっている方なので、紙書籍を軸に活動なさっていたのだと思いますが、電子書籍におけるセルフパブリッシングに可能性を見出だしたのでしょう。セルフパブリッシングでは、商業と同じ土俵で出版が出来ますのでHLが成功すれば大きな役割を果たすだろうと思います。具体的にはいわゆるプロとアマチュアの垣根をより混沌とさせ、それ以外の要素が出版界では重要になる時代がくるかもしれないということです。
ところが、セルフパブリッシングにはいまだ大きな問題があります。いくつかありますが、作り手からするとプロモーションが最大の問題だと思われます。個人の宣伝力には限界がありますから、商業出版と比べると露出機会を大幅に少なく見積もらざるを得ません。また、商業出版では「出版社の審査を通過した」という事実が質を一定程度保証してくれているのに対して、個人作家はそれがゼロなので消費者的には手が出しにくいわけです。
この問題を解決する一つの方法がレーベルです。レーベルでプロモーションを担当することで、個人だけで宣伝するよりも関わる人数が増えて宣伝力が増しますし、販促シナリオを練れば複数の作品を売り込むことが出来ます。さらに、レーベルから出ているという事実は一定の質担保の機能を果たすことが出来るのです。
弥生さんがこのようなことを考えたのかは分かりません。別の理由があったのかもしれません。しかし、いずれにせよ、レーベルというかたちに目を付けたことは素晴らしいことだと私は思っています。
〈誰向けか?〉
セグメンテーションやターゲティングについては、私としては不明瞭だという印象があります。サイトでもあまり強調はされていないのではないでしょうか。
「同人だからできる在野発のアプローチで、本当に書きたいもの・読んでもらいたいものを発刊する場」、「書き手の想いをできるだけありのままに、なるだけ強く遠くへ届けたい。そういうユニークな想いを集めた場所を創りたい」(公式HPより引用)というメッセージはあるのですが、これはどちらかと言えば作家側のメリットなので読者に響くかは微妙です。この作家側の思いが読者側にどういう価値を提供できるのかをより具体的に記載するとよいのではと思っています。それによって一定のターゲティングが可能になると思います。
(例えば、「丸っこいテンプレラノベに飽きてしまった人へ向けて、とがった刺さるラノベを書きました。心を揺らす読書体験をお届けします!」みたいな……)
またHLは作品ジャンルが基本的にバラバラなので、それらを統合するブランドを確立することでプロモーション計画がより立てやすくなるのではないでしょうか。
(個々をブランディングして、統合ブランドを設けない場合も実際多くありますが、HLでこれを採用するのはあまり意味がないと考えます)
次にポジショニングについてです。このようなセルフパブリッシングの分野で複数人のレーベルというかたちをとっているのは現状HLぐらいでしょうし、仮に他にあっても売上ではシェアトップだと思われます。ゆえに(セルフパブリッシングレーベル)市場の一番手をとっており、スタートダッシュには成功したと解してよいと思います。
〈4P〉
プロダクト
これについては門外漢なので詳しくは触れません。でも、「青春くろーび」は大好きです(笑)
以前弥生さんの編集方法がTwitterで何やら話題になってしまったようですが、それだけ真摯に作品に向き合っているという事実が伝わって逆に作品の質担保につながったのでは、なんて思いもあります。
プレイス
現状はKDPのみです。詳細なデータは持ち合わせていませんが、見聞きしてきたイメージとしてはやはりKDPは圧倒的に売りやすいようですので、無理に他ストアに配信する必要はないのではと考えます(ロイヤリティも下がりますし)。
プライス
今のところは300円固定ですね。値段については私もあまり研究できていないので何とも言えないのが正直なところです。
プロモーション
基本的にはHLのサイト+Twitter、弥生さんのブログ+Twitter、その他関係者のブログ等+Twitterかなという感じでしょうか。
問題はどうプロモーションするかですね。最新作の「ひめとり!」(買ってはあるのですがまだ読めていないのです…ごめんなさい)が今はよく売れているそうですが、一つの要因としては初動がよく、早期にランキングに入ることが出来たことが大きいのではないかと予想しています。「ランクイン=売れている=質担保」という図式が成り立つからです。また、作者の晴丸さんがつくった動画の効果もあるのかもしれません。
今後見るべきポイントは次作の動向です。
消費者には2種類います。それは「新規」と「ファン(常連)」です。これは両輪でどちらにもアプローチをかける必要があります。具体的には、新規さんに対しては「質担保」と「話題性づくり」、常連さんには「コンテキストづくり」と「価値の明確化」を行うとよいのではと思っています。とはいえ、ウェイトとしてはファンを重視するべきだというのが私の考えです。なぜならファンの動きが新規を呼び込むからです。
(逆に新規に重きを置くと博打型になります)
もし、HLに一定のファンがおり、「ほぼほぼ買うよ層」が確立されていれば初動の良さを確保できるためにほぼ毎回「ひめとり!」のようなケースを辿れる可能性があります。しかし、そうでないのであればこのような動きにはならないでしょう。ゆえにファンのつき具合を探ることが今後重要になると考えます。
ではどうやったらファンを付けられるか。必要なのは、以下3つです。
①作品作成の経緯の説明
②どんな価値を与えたいのかの説明
③どう読んで欲しいかの説明
(誰に読んで欲しいか)
弥生さんが最近お始めになったブログで①を行っていますが、とても面白いです。あとは各作品、レーベルそのものについても上記を説明することで、作品へのコンテキストが発生し、購入動機をつくることが出来ます。消費者にとって「買う」ことは悪です。なので「買わない理由」をいつも持っています。ですが、販促やその他の動きでもって、それに打ち勝ち「買う」ことを正当化させられたときに初めて商品に手を伸ばすわけです。そのためには購入動機を複数提供しておくことが大事になります。
あとは、HLのキャラクターである「はことレティ」をどう使うのかが重要ではないでしょうか。現状はあまり利用されていない部分が見受けられます。ですが、キャラクターを利用することで、押しつけがましさを減らすことも出来ますし、普通の宣伝とは違うかたちを採用することが出来ます。
例えば、
「作品製作過程を明らかなネタバレにならない程度に逐次伝える」
「上記①②③を伝える役割を担わせる」
(これに小説を利用すると面白いと思いますが負担が多くなりすぎますね)
「販促企画に使用する」
などが考えられます。
今の状態だとちょっともったいないなあと思うところです(弥生さんが色々と兼業していらっしゃり大変そうなので仕方ないかなと思ってもいますが)。
〈まとめ〉
ざっくりまとめると、
・読者にとっての価値の明確化
・プロモーション方法の精緻化
・はことレティの使用
をすると、より飛躍できるのではと考える次第です。
また可能性についてですが、HLが今後も安定した売上をあげられるような体制を構築できれば、複数人によるレーベルがいくつか出来ることが考えられます。そうなると、セルフパブリッシング市場そのものが広がっていくでしょう。また、プロモーションや編集のみならず、新人発掘機能をも果たしうるかもしれません。こうなれば電子書籍に特化した出版社として、従来の出版社を脅かす存在にさえなる可能性があります。
レーベルというかたちをとることでの弊害もあるにはあるのでしょうが、メリットはそれを補ってあまりあるのではないかと私は考えています。
新しい動きは何かと言われるのが世の常です。その行動を起こした弥生さんやその他作家の方々は本当にすごいなと思います。私にはちょっと出来そうもありません。
私は今後もHLの活動は注目していきますし、応援したいなと思っています。読んでいる方もこの新しい可能性に夢と希望をのせてみてはいかがでしょうか。
リンク
・Hybrid Library
・ポジティブ物書きの雑記帳(レーベル主宰の弥生肇さんのブログ)