日本家電メーカーの失速理由を考えてみる
今回は日本の家電メーカーの失速理由について考えてみようと思います。とはいえ、全体を考えるのは難しいので、今回はテレビに絞って考えてみようかと思います。
私は失速の大きな理由として、「マーケティングの失敗」「時代への不適応」「成功体験への固執」があると考えています(よく言われることですが)。順番に見てみましょう。
①マーケティングの失敗
マーケティングというのは、販売戦略(シナリオ)の大元であり、そのプロセス全般を示すと私は解釈しています。そのため内容が多岐にわたりますが、テレビについて考えると、「ターゲットの曖昧さ」が最も問題であると思います。
ターゲットという側面で見ると、まず若者市場を見てみる必要があります。
一般に最近の若い人はテレビを見なくなった、と言われます。テレビを見ないということはテレビ自体を買わない可能性も高まるので、原因に出来るのではないでしょうか。
データで見てみましょう。こちらのサイト(http://www.garbagenews.net/archives/2059804.html)が参考になります。
データでは、若い人(29歳以下)の世帯におけるテレビの普及率は、単身世帯が80.3%、それ以外で94.6%です。単身世帯のほうが割合は低いとはいえ、8割の世帯がテレビを持っているので、これをもって若い人はテレビを持っていないと断言するのは言い過ぎでしょう。したがってこれは理由にしにくいです。要するに若い人がテレビを買っていないわけではないということです(もちろん少子化が進んでおり母数が減っているので絶対数は減少していますが)。
別の観点から考えると、同サイトの平均世帯人員が面白いデータを提供しています。1953年には世帯当たりの平均人員は5人だったのが、現在はおおよそ2.5人になっています。簡単に言えば大家族の減少です。同サイトのデータ出典である厚労省の調査結果(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/dl/02.pdf)で、昭和63年以降の世帯種別割合の推移を見てみると増えているのは「単身世帯」「夫婦のみ世帯」「ひとり親+未婚子世帯」で、逆に減っているのは「夫婦+未婚子世帯」「三世代世帯」であることがこれを裏付けています。
ということは要するに、各世帯が縮小し分散してきているということです。なので同時に世帯数は右肩上がりです。
でも、こうするとちょっとおかしいですね。テレビの普及率は高いわけですから、世帯が分散して増えればそれだけ市場も拡大することになります。なぜ日本メーカーはどこも苦しんでいるのでしょう。
ここでポイントになるのが先ほど出した「ターゲットの曖昧さ」です。潜在的ターゲットが分散すればニーズも多様化します。多様化したニーズに合わせるには、商品ラインナップも多様化しなくてはいけません。ここへの未対応が日本メーカーの失敗ではないでしょうか。
では、なぜこの失敗を犯したのか。それが次の理由です。
②時代への不適応
私の両親の幼少期にはまだ白黒テレビが一定数普及していたようですが、あまり時を経ずにカラーテレビへの置き換えが進んでいきました。
ここでの消費者の叫びを考えてみましょう。
「うわ! カラーだ!」
きっとこうでしょう。今だったら「当たり前じゃん」という話ですが。要するにカラーにすれば売れた時代だったのです。その後画質の向上、リモコンの標準装備化など新しい機能が開発されればされるほど、消費者は驚嘆しそれを喜んで買ったのです。この時代の日本メーカーの躍進ぶりは皆さんもご存じでしょう。
しかし、商品を買う際に重要なのは「この商品が自分にもたらしてくれる価値」です。一部の人を除いて、大多数の人は「価値」にお金を払います。高度成長末期頃の「価値」は高品質でした。出来るだけ良いものを買って「豊か」になるのだというのが生活の価値観だったわけです。
ですが、それをどんどん進めていくと、品質がインフレ化します。最低ラインが上がり過ぎて、最高ラインと最低ラインの幅が狭くなり、最低ラインでも消費者が満足するレベルになり品質への価値が薄れたのです。同時に豊かさの追求だけで良いのか? という価値観の転換が見られるようになり、バブルの崩壊でそれは確固たるものになりました。
以降、私たちは「品質はそれなりで安いもの」を買い求めるようになりました。にも関わらず、日本のメーカーは高品質競争を続けます。そこに入ってきたのが韓国のサムスンなどに代表される海外製商品です。彼らはマーケティングをしっかり行い、「品質はそれなりで安い」というものを大量に売るようになりました。この頃からの失速がまだ続いていると言えるでしょう。
いまだに日本のメーカーは4Kや8Kといった高画質競争をしていますが、消費者からすると「それはいいから安くして!」という感じです。白黒は嫌ですが、ハイビジョンと4Kと8Kでさした違いがあるようには思えないからです。
しかし、時代に合わないのになぜこうも品質にこだわるのか。それが第三の理由につながります。
③成功体験への固執
技術者の方というのは、言うなれば職人です。職人は自らの腕で高品質な製品をつくることに誇りを持っていらっしゃる方が多いと思います。誇りはどこからくるのかと言えば、「自分たちがいたから、日本メーカーは世界でトップにたてたんだ!」という成功体験です。
もちろん、当時はそうでしたし、誇りを持つことは素晴らしいことなのですが、同じことをずっとやっていても受け入れられないという現実があります。
どこかの段階で完全にその成功体験をリセットする必要があります。正確には、本質的な部分(思想面)は受け継ぎつつ、戦術を変えるのです。
④今後どうしたらよい?
以降は、私が素人考えで考えた対策です。
ア)高齢者向けテレビ
今の市場は高齢者向けのほうが広いので、そちらを狙うのがとりあえずは妥当です。
高齢者の方が、テレビで一番困るのは何だろうと予想すると、配線のめんどくささがあるのではないかと思います。
そこで、
パターン1:配線/設定は無料でスタッフを派遣してメーカー側が行う。かつ使い方も教える。
パターン2:出来るだけコードレスなテレビを売り出す
が考えられると思います。
パターン1はすでにやっているような気もしますが、高齢者向けを狙うには必須ではないでしょうか。私がやっても配線大変ですからね……。
パターン2は今後の技術開発に期待です。せっかく電波で放送を受信しているので、Wifiのようなもので電波をテレビへ飛ばすようにしてコードを出来るだけ少なくするというのはどうでしょう。そうすれば、置いて発信器を取り付ければ、すぐテレビが見られます。
イ)チャンネル同時販売
テレビを買う人は何に価値を払っているのかと言えば、最低限の画質と面白い番組を見ることです。しかし、肝心の番組コンテンツが民放については不振です。その一つの要因として、専門チャンネルの普及があります。CSやケーブルテレビですね。
なのであれば、いっそテレビに付随して1つないし複数のチャンネルも一緒に販売するというのはどうでしょう。なんだったらメーカーで新しく作ってしまうのもいいでしょう。
例1)プロ野球全試合視聴可能チャンネルが付随
例2)アニメ全部見れちゃうよチャンネルが付随
例1は高齢者向けです。女性はそうでもないかもしれませんが、男性でプロ野球見る人は多いです。でも民放ではあまり放送されないので、全部もれなく見れるチャンネルをつくってパッケージ化するのです。(一部をテレビの代金で徴収し、あとは割安な月賦制)
例2は若い人向けです。地方局では放送されないアニメなんかもあるので、そのクールに放送されるアニメがもれなく見れるチャンネルをつくってパッケージ化します。(一部をテレビの代金で徴収し、あとは割安な月賦制)
まあ、実際やるとなると番組の買い取り金額などの話がついてくるので価格設定を慎重にやる必要がありそうですが、チャンネル自体は高い付加価値になり得るので価格が多少高くとも何とかなる気がします。
⑤教訓は何か?
家電メーカーの失敗をテレビを軸に考察してみましたが、ここから私たちが学びとれることは以下のようなことだと思います。
・ターゲットを絞ること(または変更時期を逃さないこと)
・時代を常に注視し、時代に適合したものをつくること(なお時代を予測出来れば時代がつくれる)
・成功体験の戦術面に固執しないこと
人間ですから常に逆へ向かう誘惑があります。「ターゲットを広くとって売上を上げたい!」「自分のコンテンツが時代を引っ張れるものだ!」「上手くいったことを否定したくない!」など。でもそれを思い切って見直すことで活路が開けることもあるのではないでしょうか。
では!
私は失速の大きな理由として、「マーケティングの失敗」「時代への不適応」「成功体験への固執」があると考えています(よく言われることですが)。順番に見てみましょう。
①マーケティングの失敗
マーケティングというのは、販売戦略(シナリオ)の大元であり、そのプロセス全般を示すと私は解釈しています。そのため内容が多岐にわたりますが、テレビについて考えると、「ターゲットの曖昧さ」が最も問題であると思います。
ターゲットという側面で見ると、まず若者市場を見てみる必要があります。
一般に最近の若い人はテレビを見なくなった、と言われます。テレビを見ないということはテレビ自体を買わない可能性も高まるので、原因に出来るのではないでしょうか。
データで見てみましょう。こちらのサイト(http://www.garbagenews.net/archives/2059804.html)が参考になります。
データでは、若い人(29歳以下)の世帯におけるテレビの普及率は、単身世帯が80.3%、それ以外で94.6%です。単身世帯のほうが割合は低いとはいえ、8割の世帯がテレビを持っているので、これをもって若い人はテレビを持っていないと断言するのは言い過ぎでしょう。したがってこれは理由にしにくいです。要するに若い人がテレビを買っていないわけではないということです(もちろん少子化が進んでおり母数が減っているので絶対数は減少していますが)。
別の観点から考えると、同サイトの平均世帯人員が面白いデータを提供しています。1953年には世帯当たりの平均人員は5人だったのが、現在はおおよそ2.5人になっています。簡単に言えば大家族の減少です。同サイトのデータ出典である厚労省の調査結果(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/dl/02.pdf)で、昭和63年以降の世帯種別割合の推移を見てみると増えているのは「単身世帯」「夫婦のみ世帯」「ひとり親+未婚子世帯」で、逆に減っているのは「夫婦+未婚子世帯」「三世代世帯」であることがこれを裏付けています。
ということは要するに、各世帯が縮小し分散してきているということです。なので同時に世帯数は右肩上がりです。
でも、こうするとちょっとおかしいですね。テレビの普及率は高いわけですから、世帯が分散して増えればそれだけ市場も拡大することになります。なぜ日本メーカーはどこも苦しんでいるのでしょう。
ここでポイントになるのが先ほど出した「ターゲットの曖昧さ」です。潜在的ターゲットが分散すればニーズも多様化します。多様化したニーズに合わせるには、商品ラインナップも多様化しなくてはいけません。ここへの未対応が日本メーカーの失敗ではないでしょうか。
では、なぜこの失敗を犯したのか。それが次の理由です。
②時代への不適応
私の両親の幼少期にはまだ白黒テレビが一定数普及していたようですが、あまり時を経ずにカラーテレビへの置き換えが進んでいきました。
ここでの消費者の叫びを考えてみましょう。
「うわ! カラーだ!」
きっとこうでしょう。今だったら「当たり前じゃん」という話ですが。要するにカラーにすれば売れた時代だったのです。その後画質の向上、リモコンの標準装備化など新しい機能が開発されればされるほど、消費者は驚嘆しそれを喜んで買ったのです。この時代の日本メーカーの躍進ぶりは皆さんもご存じでしょう。
しかし、商品を買う際に重要なのは「この商品が自分にもたらしてくれる価値」です。一部の人を除いて、大多数の人は「価値」にお金を払います。高度成長末期頃の「価値」は高品質でした。出来るだけ良いものを買って「豊か」になるのだというのが生活の価値観だったわけです。
ですが、それをどんどん進めていくと、品質がインフレ化します。最低ラインが上がり過ぎて、最高ラインと最低ラインの幅が狭くなり、最低ラインでも消費者が満足するレベルになり品質への価値が薄れたのです。同時に豊かさの追求だけで良いのか? という価値観の転換が見られるようになり、バブルの崩壊でそれは確固たるものになりました。
以降、私たちは「品質はそれなりで安いもの」を買い求めるようになりました。にも関わらず、日本のメーカーは高品質競争を続けます。そこに入ってきたのが韓国のサムスンなどに代表される海外製商品です。彼らはマーケティングをしっかり行い、「品質はそれなりで安い」というものを大量に売るようになりました。この頃からの失速がまだ続いていると言えるでしょう。
いまだに日本のメーカーは4Kや8Kといった高画質競争をしていますが、消費者からすると「それはいいから安くして!」という感じです。白黒は嫌ですが、ハイビジョンと4Kと8Kでさした違いがあるようには思えないからです。
しかし、時代に合わないのになぜこうも品質にこだわるのか。それが第三の理由につながります。
③成功体験への固執
技術者の方というのは、言うなれば職人です。職人は自らの腕で高品質な製品をつくることに誇りを持っていらっしゃる方が多いと思います。誇りはどこからくるのかと言えば、「自分たちがいたから、日本メーカーは世界でトップにたてたんだ!」という成功体験です。
もちろん、当時はそうでしたし、誇りを持つことは素晴らしいことなのですが、同じことをずっとやっていても受け入れられないという現実があります。
どこかの段階で完全にその成功体験をリセットする必要があります。正確には、本質的な部分(思想面)は受け継ぎつつ、戦術を変えるのです。
④今後どうしたらよい?
以降は、私が素人考えで考えた対策です。
ア)高齢者向けテレビ
今の市場は高齢者向けのほうが広いので、そちらを狙うのがとりあえずは妥当です。
高齢者の方が、テレビで一番困るのは何だろうと予想すると、配線のめんどくささがあるのではないかと思います。
そこで、
パターン1:配線/設定は無料でスタッフを派遣してメーカー側が行う。かつ使い方も教える。
パターン2:出来るだけコードレスなテレビを売り出す
が考えられると思います。
パターン1はすでにやっているような気もしますが、高齢者向けを狙うには必須ではないでしょうか。私がやっても配線大変ですからね……。
パターン2は今後の技術開発に期待です。せっかく電波で放送を受信しているので、Wifiのようなもので電波をテレビへ飛ばすようにしてコードを出来るだけ少なくするというのはどうでしょう。そうすれば、置いて発信器を取り付ければ、すぐテレビが見られます。
イ)チャンネル同時販売
テレビを買う人は何に価値を払っているのかと言えば、最低限の画質と面白い番組を見ることです。しかし、肝心の番組コンテンツが民放については不振です。その一つの要因として、専門チャンネルの普及があります。CSやケーブルテレビですね。
なのであれば、いっそテレビに付随して1つないし複数のチャンネルも一緒に販売するというのはどうでしょう。なんだったらメーカーで新しく作ってしまうのもいいでしょう。
例1)プロ野球全試合視聴可能チャンネルが付随
例2)アニメ全部見れちゃうよチャンネルが付随
例1は高齢者向けです。女性はそうでもないかもしれませんが、男性でプロ野球見る人は多いです。でも民放ではあまり放送されないので、全部もれなく見れるチャンネルをつくってパッケージ化するのです。(一部をテレビの代金で徴収し、あとは割安な月賦制)
例2は若い人向けです。地方局では放送されないアニメなんかもあるので、そのクールに放送されるアニメがもれなく見れるチャンネルをつくってパッケージ化します。(一部をテレビの代金で徴収し、あとは割安な月賦制)
まあ、実際やるとなると番組の買い取り金額などの話がついてくるので価格設定を慎重にやる必要がありそうですが、チャンネル自体は高い付加価値になり得るので価格が多少高くとも何とかなる気がします。
⑤教訓は何か?
家電メーカーの失敗をテレビを軸に考察してみましたが、ここから私たちが学びとれることは以下のようなことだと思います。
・ターゲットを絞ること(または変更時期を逃さないこと)
・時代を常に注視し、時代に適合したものをつくること(なお時代を予測出来れば時代がつくれる)
・成功体験の戦術面に固執しないこと
人間ですから常に逆へ向かう誘惑があります。「ターゲットを広くとって売上を上げたい!」「自分のコンテンツが時代を引っ張れるものだ!」「上手くいったことを否定したくない!」など。でもそれを思い切って見直すことで活路が開けることもあるのではないでしょうか。
では!